ジャズピアノの思い出
私の両親は音楽鑑賞が好きで、子どもの頃から家ではいつもクラシック音楽が流れていました。
姉はその道に進みましたが、私だけは昔から音楽はポップスとジャズ派でした。(とは言っても、そんなにすごく詳しいわけではないのですが。)
中学時代はThe Beatles, 高校時代はDeep PurpleやQueenなどのハードロック系や、ユーミンを始めとするニューミュージック、大学の時は、George
Benson, Grovar Washington Jr, Michael Franks, Joe Sampleなどのフュージョンやジャズ、ユーミンや山下達郎あたりのニューミュージックが好きで聴いていました。
大学では少しだけ軽音楽クラブに顔を出していた時期があって、音楽好きの友達ができてライブハウスやコンサートもよく行ったりしていました。
でも、結婚して子どもが生まれてから、育児のことで頭が一杯になってしまったせいか、昔のように熱心にいい音楽を探し求めて聴くようなことからしばらく離れてしまっていました。
そんな時、クラス会で再会した同級生がジャズピアニストになっていて、スクールもやっているとのことなので、早速習いに行くことになりました。彼女のCDも聴いてみて感動し、そんな世界に少しでも近づきたいと思いました。
吉祥寺のライブハウス「ストリングス」で定休日に月2回レッスンがあり、初回は見学に行きました。ちょうどその日は、ボーカル、ベース、ピアノでセッションをしていて、この久しぶりのライブの空気に、忘れかけていた世界に舞い戻ったような懐かしさがこみ上げました。
その月からレッスンが始まり、最初に渡された楽譜を見てびっくり。先生の手書きの楽譜で、メロディーとコードが書いてあるだけです。コードも、基本形以外にEm7♭5とか、A♭△7, C7♭13など、何か複雑そうなものまで混ざっています。
先生は、「ジャズは数学。」と言ってましたが、まさにそんな感じです。私は子どもの頃にピアノをやって、高校の頃にエレクトーンを少し習っていましたが、ブランクも長く、まず、忘れていた基本のコードを思い出し、そこから派生する複雑なコードは、教わった理論にあてはめて数えれば何とかわかってきたので、後はひたすら覚えるのみ。家にあったピアノの楽譜に出ていたコード表をコピーして、1つずつ切り分けてコードカードを作り(上の写真がそのカードです。)、電車の中などで暗記を試みました。コードの種類は意外に多く、たとえば主音がドのCのコード1つ取ってみてもC,
C6, C7, Cmaj7, Cm, C6maj7, C7maj7, Cm7, Cm7♭5, Cdim, Caugと、なんと11個もあるのです。それが12音階分あるので単純に計算して11×12で132個ものコードが!
コードの仕組みがわかってきても、いざ、演奏する時にぱっと弾くのはなかなか難しいので、自分のやっている曲の中に出てくるコードからマスターして行き、色々な調の曲をやっているうちにだんだんコードを押さえられるようになるとのことで、まず、レッスン曲のMy
one and only loveに出てくる18個のコードから入っていきます。
最初のアレンジは、Open voicingと言って、両手でコードを理論に従って分散して弾きます。慣れるまでは結構大変でしたが、その後、As
time goes byの曲に入った時は、ずいぶん楽になっていたので、ここまでは私も理解できて、この弾き方をするだけで結構ジャズっぽく聞こえるので、とっても楽しくて夢中になっていた時期です。
習い始めて8ヶ月目にストリングスでの発表会に出たのですが、その頃はだんだん難しくなってきた理論に悩み始めていた頃でした。でも、発表会の前のリハーサルで初めてベースと合わせて弾いた時、そのアンサンブルの音の魅力にとりつかれ、なんだかすっかり気持ちよくなってしまい、やっぱり続けたいと思いました。
ところが、循環コード、代理コード、裏コード、5種類のスケール、Close voicingなど習い進み、どんどん理論が難しくなってくるにつれて、私の頭ではもう何度同じ説明を聞いても理解できなくなってきてしまいました。それでも先生は何ヶ月もの間、気長に優しく繰り返し教えてくれたのですが、結局、自分のものにできないまま練習が重荷になり始め、そしてとうとう精神的に限界を感じ、レッスンをやめました。
やめてしまったら、肩の荷が下りて気が楽になったせいか、習った曲をよくひとりで弾くようになりました。1年間だけのジャズピアノのレッスンだったけれど、私にとって本当に幸せな経験でした。
今でもジャズピアノを弾くと、あの頃のすてきな世界がよみがえって、胸がじーんとします。
続けたかったけれど、どうしても前に進めなかった私・・・
それは、一つの恋が終わった時の切ない心境にもよく似ています。
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Memories of Jazz Piano