絵本の原画展

数年前の秋、玉川高島屋にお買い物行った時、偶然、「東欧絵本の世界展」をやっていたので、入ってみました。 東欧の絵本作家の原画が100点くらい展示してありましたが、私はそこで一人の作家の作品に心を奪われました。

それは、ポーランドのマイケル・グレイニエツ作、「お月さまってどんなあじ?」でした。和紙のような、でこぼこした紙の質感がなんとも言えず味わい深く、印象的でした。そこに描かれていたお月様や動物たちの絵もとても可愛らしく、作品の前に立ってじっと見ていると、何か心に響きました。

展覧会場で、さっそくその絵本を買って帰りました。
家に戻ってから本を開いてみた時、正直言って、少しがっかりしました。展覧会で目にした、あのでこぼこした感じが、印刷になってしまうと、どうしても平らっぽく見えてしまっていたからです。
でも、もし、原画を知らないで絵本だけを見たとしたら、すごくいい絵だから気に入ったと思うし、それなりに凹凸感はわかるとも思えました。

読んでみたら、とてもいいお話だったのでますます好きになりました。
お月様ってどんな味なのか知りたかった動物達。ある日、カメが高い山のてっぺんに登ってかじろうとしました。でも、届かないので次々に仲間を呼んで、背中にのせていく。 カメの次はゾウ、キリン、しまうま、ライオン、きつね、さる、そして最後に小さなねずみがのって、パリッとお月様をかじります。 さて、どんな味だったか・・・

子ども達に読み聞かせをしたら気に入ってくれたらしく、次の日も、またその次の日も、同じ本を持ってきては読んでほしいとせがみます。でも、読みながらついつい「本物はもっとでこぼこしていていい感じなのよ。」と言ってしまって。子ども達にも原画を見てもらいたかったけれど、展覧会は、私が行った日が最終日。もう少し早くわかっていればと、悔やまれました。

でも、ある時、ふと思いつきました。玉川高島屋での展覧会は終わってしまっているけれど、今頃は日本のどこかを回っているのかもしれないと。ネットで調べてみたら、案の上、その時展覧会は和歌山県に行っていました。それから、冬休みには北海道の帯広でやって、それが日本では最後ということでした。
そこで、冬休みになったら子ども達を連れて、帯広まで見に行くことにしました。

北海道へ行くことが決まってからは、この絵本の読み聞かせをするたびに、子ども達と一緒にわくわくしていました。そして、冬休み、旅行の直前になって風邪をひいて熱を出してしまった息子。延期するにも、飛行機のチケットが冬休み中はもう取れませんでした。北海道へ行くのは泣く泣くキャンセルせざるをえませんでしたが、子ども達のあまりの落胆ぶりと、この機会を逃したら、もうあの絵本の原画を子ども達に見せてあげることはできないだろうという思いから、冬休み明けに旅行に行きました。

初めて行った、冬の北海道。気温はマイナス16℃。念願の展覧会に行き、ようやく子ども達に見せることができました。
今でも、この絵本を見るたびに、原画を求めて行った旅のこと、さらさらの雪やつららで遊んだ楽しい思い出がよみがえってきます。子ども達にとっても、特別な絵本として心に刻まれていることと思います。

マイケル・グレイニエツは、1955年にポーランドで生まれ、後にアメリカに移住し、「クレリア」、「にじいろのはな」他、数々の絵本を発表。1996年にこの「お月さまってどんなあじ?」(セーラー出版)で日本絵本賞翻訳絵本賞を受賞しています。



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