Paupiettes
ポーピエット(ひき肉詰めロール巻き)
以前にフランスに1年間住んでいた時、アパルトマンがみつかるまでの1ヶ月間、ホームステイを経験したことがあります。フランス人の家庭で日常の食事を毎日共にいただき、生活スタイルをとてもよく知ることができました。
フランス料理レストランでは、コースとしてお料理が一品ずつ順番に供されますが、それはフランスの家庭の中でも同じです。昼食と夕食は、オードブル、メインディッシュ、チーズ、デザート、コーヒーまたはハーブティー・・・と必ず順に出されますが、毎日食べていると、このコースの仕組みはとてもうまくできていると思いました。
オードブル(hors d'oeuvre)とはフランス語で「作品外」という意味ですが、まず空腹の胃にやさしい、軽いものを前菜としていただき、メインディッシュに移るために体の準備を整えます。それからボリュームのあるメインの料理をしっかりいただき、次に美味しいチーズを食べます。チーズは味が強いものもあるし、前菜やメインの前に食べたのではお腹が一杯になってしまうので、順番としてはやはりメインの後と、うまくできています。その後、甘い優雅な味のデザートで食事をしめくくると、舌も心も満たされてきます。最後は、ゆっくりとコーヒーやハーブティーを飲んで体や気持ちを落ち着かせる・・・と一連の流れが1つの完結したストーリーのように感じられて、実によくできたスタイルだと思いました。
このように料理を一皿ずつ順を追って供する方法は、ロシア式サービスと呼ばれていて、19世紀にロシア貴族の料理長をしていたいたユルバン・デュボワ(1818〜1901)によって、彼の帰国後フランスに伝えられました。それまでフランスでは、料理を一度に食卓に並べるフランス式サービスを行っていましたが、ロシア式サービスを取り入れてからは、温かい料理は温かいまま、冷たいものも冷たいままでより美味しく食べられるようになり、現在のフランス料理に近づいてきました。
フランス料理の歴史のお話を少ししてみましたが、私は大学の時の拙い卒論のテーマがブリヤ・サバランの「美味礼賛」とフランス料理の歴史でしたので、思い出して書いてみました。
このホームページのWorkのページにも少し書きましたが、フランスの家庭のお料理は、レストランのものとはずいぶん違って、主婦にとって毎日のことなので素朴で作りやすいものが多かったです。だから、昼食と夕食がコース仕立てというと、何かすごいご馳走のように聞こえますが、そんなにびっくりするほど手がかかっているわけではなく、生活の中で自然に作れるものをうまく使っているという印象でした。中には手の込んだお料理もありましたが、簡単なものは本当に簡単で、たとえばオードブルは葉野菜(ほうれん草、マーシュ、トヴィーズ、たんぽぽの葉など、1〜2種類)に手作りドレッシングをかけたサラダとか、骨付きハムの薄切り(日本のハムとは別物で、すごくおいしい)に瓶詰めのコルニッション(小きゅうり)のピクルスを添えたものだったり。ランチの時の簡単オードブルには、ラディッシュに塩とバターをつけてぽりぽりとたくさん食べることもあったりしました。(フランスの細長いラディッシュの典型的な食べ方です。)
メインディッシュは、オーブンで肉料理と付け合わせの野菜を一緒にローストしたり、お鍋1つでできる煮込み料理というようなざっくりとした感じの素朴なお料理が多かったです。その中でも、このポーピエット(挽き肉のロール巻き)は、フランス家庭料理の代表的なものです。挽き肉の混ぜ物を薄切り肉で巻いて、トマト風味のソースの中で煮るのですが、何かほのぼのとした温かい味がします。
paupiettesの名前は、フランス語のpapier(パピエ=紙)に由来します。筒状に丸めて作るものもあり、それを巻くために紙を使ったことから、発音が変化し、いつしかポーピエットと呼ばれるようになったと言われています。
Paupiettes de veau(仔牛のポーピエット)が最も一般的ですが、他の種類のお肉で作られることもあります。日本の家庭では仔牛の薄切りは手に入りにくいので私のレシピでは豚肉を使っていますが、それもとてもおいしくできます。
懐かしい音楽を偶然聴いた時、その頃の自分と重ね合わせると思いますが、私はなぜかこのポーピエットを食べると、ホームステイの日々を思い出します。 舌の記憶でしょうか・・・
(フランスの家庭のお料理に関しては、Recipes & essay ページの「玉葱のタルト」の中でも書きました。併せてご覧ください。)
レシピのページへ →
Back
Home
フランスの家庭でいただいたお料理。
(1回の食事には、オードブル、メインディッシュ、デザートを各1品ずついただきます。)