Tarte aux pommes
りんごのタルト
以前、フランスに住んでいた時、フランス人の家庭に1ヶ月間ホームステイをしたことがあります。お料理の好きなマダムに毎日のお食事作りを教えていただき、とても勉強になりました。
日本料理は一汁三菜というけれど、フランスの家庭料理は2品(オードブル、メインディッシュ)とデザートです。
たいていの場合、食事の仕度はまずデザートから作り始めます。ひとつのボウルでできるような簡単な焼き菓子やタルト類、フルーツのコンポート、ムースなどが多かったです。その後で、オードブルとメインディッシュを作っていくのですが、この手順を見ていると、デザートというのはフランス人の食事にはなくてはならないもので、言わば、おかずの一つみたいな感覚のように思いました。
そんなことを実感した出来事が、帰国後にありました。
ホームステイ先でお世話になったムッシュが、私が帰国してから3年位経った時、仕事で日本にいらっしゃる機会がありました。ムッシュと一緒にフランスからいらした彼のお仕事仲間の方々もご一緒に、7人で六本木で食事をすることになり、フランス人にうけると聞いたので、焼き鳥屋さんにご案内しました。
肉料理の好きなフランス人なので、焼き鳥はなかなか好評でした。
ところが、焼き鳥のコースの最後の方になった時、ムッシュが「もうお腹が一杯になったから、そろそろデザートが食べたい。」と言った途端、6人が皆、口を揃えて「Dessert!!」と、目を輝かせて嬉しそうな表情に・・・
彼らはみんな50歳くらいのフランス人男性なのですが。
ここで私は、しまったと初めて気がついたのです。焼き鳥屋さんに甘いお菓子なんておいてないことに。
困ってしまった私は、わらをもつかむ気持ちで店員さんにデザートになるものはないか聞いたら、柿ならあるとのこと。
柿はフランス人にとってエキゾティックなフルーツなので、柿と聞いて日本らしいデザートと感じてくださったようで、これで何とかなりました。一応デザートらしきものを最後に食べられるということで、皆ほっとした表情になり、私もようやく一安心。出てきた柿をそれはそれは美味しそうに召し上がっていました。
フランスの家庭では、タルトは直径30cmくらいのすごく大きな型で作り、夕食のデザートにした後、次の日の昼食にも食べたりしました。
デザートにタルトを作ることは本当に多く、印象に残っているものは、白ぶどうとメレンゲのタルト、お庭で育てていたルバーブのタルト、ミラベルのタルト、レモンメレンゲタルト、洋梨のタルト、アプリコットタルト・・・など。
その中で、今回は簡単で一番よく作られるりんごのタルトをご紹介します。
りんごはフランスの果物の消費量第1位で、フランス人は本当によくりんごのタルトを作ります。このほかに、キャラメルと一緒にりんごを焼いたタルトタタン(Recipes & essayページの「タルト・タタン物語」でもご紹介しています。)、クリームとりんごを一緒に焼くアルザス風りんごのタルトなども代表的なお菓子です。
このりんごのタルトは、シンプルなだけに、りんごそのものの味が勝負なので、新鮮で、生で食べてみて美味しいりんご(私はフジで作る味が気に入っています。)を選ぶことが大切です。甘みの少ない白桃はシロップ煮にすると美味しく食べられたりしますが、生で味のよくないりんごは、いくら甘い味をつけても決しておいしくならないのです。
作り方もシンプルで、タルト生地の上にスライスしたりんごを並べ、溶かしたバターとグラニュー糖をかけて焼くだけです。
タルト生地は2回分を一度に作って、型に敷いて冷凍しておけば、2度目はすぐにタルトが作れて便利です。(陶器かガラスの型の方が冷凍庫で長く保存できます。)
フランスでの食事は、オードブルからデザートの時までワインと一緒です。
お食事の最後に、このりんごのタルトを赤ワインとともに召し上がれば、おかずみたいなデザートの感覚が伝わってくるかもしれません。
(フランスの家庭の料理については、Recipes & essayページの「玉葱のタルト」、「ポーピエット」の中でも書きました。併せてご覧下さい。)
Tarte aux pommes りんごのタルト
材料(直径20cmのタルト型 1台分)
生地 : 薄力粉 120g、 グラニュー糖 大さじ1、 バター(有塩で可) 60g、 水 約大さじ2.5
りんご(ふじ) 2個
パン粉 カップ4分の1、 無塩バター 30g、 グラニュー糖 大さじ2.5
作り方
(1)生地を作る。ボウルに薄力粉、グラニュー糖、小さく切ったバターを入れて、手でバターの粒がなくなるまでよく混ぜる。生地の硬さをを見ながら水を加えてざっと混ぜ合わせ、粘土くらいの硬さにまとまれば、丸めて軽くつぶし、ラップに包んで冷蔵庫で15分以上ねかせる。(気温の高い夏は、バターが柔らかくなってくるので、材料をよく冷やして、エアコンのきいた部屋で手早くこねます。)
(2)プラスティックのまな板を濡れ布巾の上にのせて動かないようにさせ、ラップをまな板の長さの倍量の長さに切って、まな板の上に敷いて、余りは後ろにおり込んで、濡れ布巾とまな板の間にラップを挟んで固定する。(この上で生地を伸ばせば、生地の下に打ち粉をしなくても台にくっつくことがなくて作業がしやすいです。それから、写真のまな板は、かなり幅広のタイプのものですが、直径20cmのタルト型で作る時は普通の大きさのまな板でぎりぎり大丈夫です。ただし、木の板の場合はすべるのでこの方法は使えませんので、ラップは敷かないで台に打ち粉をしながらのばして下さい。)
(3)生地をのせて、めん棒と生地の上に小麦粉を少々ふって生地がくっつかないようにする。
(4)タルト型よりも一回り大きくなるまで円形に伸ばす。
(5)生地をラップごと持ち上げて、生地の面を下にしてタルト型の上にふわりとのせる。(ラップごと移動させた方が、生地が破れにくくて扱いやすいです。)
(6)静かにラップをはがし、薄力粉を少々指につけて、タルト型の側面に生地を押し付けて形作る。
(7)型の上からめん棒を転がして余分な生地を切り取り、除く。
(8)焼いているうちに生地が膨らんでこないように、お箸で空気穴を開ける。(フォークでピケするより穴が大きくて効果が高いです。)
(9)型の底にパン粉を散らす。(こうすると、焼いているうちに出るりんごの汁を吸ってくれて台が湿りにくいです。焼きあがって食べてみると、パン粉はどこかに消えてなくなっている感じになります。)
(10)りんごは縦半分に切って、皮と種を除き、5mm厚さの半月に切る。タルト台の中の円の外側から、切ったりんごの外側がタルト生地の周りに沿うようにして、並べていく。
(11)ミルクピッチャーに無塩バターを入れて、はねないようにラップをかけ、電子レンジで溶かす。これをりんごの上にかけ、、グラニュー糖もふりかける。
(12)170℃に予熱したオーブンで30〜40分焼く。りんごと生地がきつね色に焼けたら取り出す。始めはバターが浮いてきていますが、そのまま冷ますと自然に吸ってなじんできます。作った次の日は、りんごがしっとりしてきておいしいです。
(好みでりんごの下にレーズンを入れて焼いてもおいしい。りんごの上にかけるとレーズンが焦げてしまうので、必ずりんごと生地の間に入れます。)
焼けました。
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